他人の痛みが分からない正義感
せいぎかん【正義感】
正義を尊ぶ感情。不正なことを見て義憤を感じる気持ち。 「 -が強い」
人間にはそれぞれの正義感がある。
何を持って不正となし、憤って行動に出るかは、人によって驚くほど異なる。政治や社会の問題、あるいは趣味に至るまで、その人の生き方や立場だからこその正義感がある。だから違う人間同士、正義感同士がぶつかり合う。
結局僕らは正義感の違いを了解しつつ、何とか折り合わせることで生きていく。そんな気がする。
けれど、ただ一つ確信を持って言えるのは、
「無断での路上ライブ禁止を訴えるために、演奏している人から買ったCDを目の前で壊して嘲笑う」
そんな正義感は、何があろうと分かち合えないということだ。
1月14日、上記の通りの動画がTwitterに投稿され、凄まじい炎上を巻き起こした。
女性シンガーソングライターの路上ライブを聞いていた男性が、手作りのCDを購入した。女性が「ありがとうございます」と言うやいなや、CDを地面に叩きつけ、踏みつけ、破壊した。最後には撮影者の笑う声も聞こえる。
ここまで気分が悪くなる動画もない。元ツイートのリンクを載せるべきかもしれないが、したくない。誰からも構われなくなって消えてほしい。
CDを壊した男性は、事件後も何食わぬ顔でTwitterを動かし、またテレビニュースのインタビューにも応じた。これは22日放送のTBS系「ビビット」を基にした記事である。実際の放送も見た。
そこで語られたのは、一連の行為が彼の中の「正義感」によるという話だった。
動画を撮影した動機については「路上ライブを許可なしでやっている方をやめさせたい。撲滅というと過激ですけど」と説明。モラルについては「すこし逸脱しているなとは思っています。ただ、そこまでしないと分かっていただけない現状があるので、僕の中での正義感で動いている感じ。結局、必要悪」と話し、女性に謝罪する意志はないとした。(太字:引用者)
この男性は、許可無く路上ライブが行なわれ続ける現状に不満を抱き、こうした行為を以前から繰り返していたという。それは「僕の中の正義感」によってのことだ。
正義のためなら、モラルを逸脱しても良い。これだけ聞くと、小説や映画のダークヒーローの姿にも重なる。
けれどそれが、誰かが心を込めて生み出した創作物を、目の前で殺しても良いことになるのだろうか。
そうしてまで叶えたい「正義」って何なのだろう。
こんな行為から生まれる、無断路上ライブの無い社会が、どれほど歪んだものになるか、考えも及ばないのだろうか。
他人の痛みが分からない正義感。僕は、その正義感に抗える正義感を持ち続けて生きる。