武蔵野日記

しがない学生の日記です

「高輪ゲートウェイ」の名が星となる日を待っている

JR山手線の田町~品川間にできる新駅の名称が、昨日12月4日に発表された。

「高輪ゲートウェイ


「高輪ゲートウェイ」 山手線新駅の名称決まる(18/12/04)

 

その名をTwitterのトレンドで知り、「へー、そうなんだ」と通り過ぎようとして二度見した。

待ってくれ、え、ゲート…ウェイ? 何その余計な横文字? それで確定なの? ダサめの候補の1つじゃなくて? あまりに目に馴染まない文字列に頭は混乱した。そして僕は、なぜか湧き上がる憤懣を抑えるのに必死だった。最先端の都市感が出てるでしょ、グローバルな拠点でしょ、という風を吹かせるような軽いノリ、底の浅さ、語感の無視、秩序の無さ、それらがわずか8文字に詰まっているようで。どうしてだ…。

山手線の新駅という大きな出来事にして、どうしたらこんな着地点に降り立てるのだろうか。一旦落ち着いて事実を見なくてはならない。

こき下ろすのはその後である。

 

まずはJR東日本プレスリリース

駅名案は2018年6月5日(火)~6月30日(土)の間に公募され、応募総数64,052件というが、そのトップ3は

第1位 高輪(たかなわ)…8,398件
第2位 芝浦(しばうら)…4,265件
第3位 芝浜(しばはま)…3,497件

だったそうである。おいおい、「ゲートウェイ」ってどこから来たんだと思えばなんとそちらは第130位、応募数は36件

泡沫候補も良いところじゃないか。というか36件、きっと集団投票だと思うのですよ。JR関係者の。普通この2単語を結びつけなくないですか?

何のための公募だ、高輪で良いじゃんかと思ったが、それを凌駕する選考理由があったのかもしれない。JRの発表を読む。

この地域は、古来より街道が通じ江戸の玄関口として賑わいをみせた地であり、明治時代には地域をつなぐ鉄道が開通した由緒あるエリアという歴史的背景を持っています。

新しい街は、世界中から先進的な企業と人材が集う国際交流拠点の形成を目指しており、新駅はこの地域の歴史を受け継ぎ、今後も交流拠点としての機能を担うことになります。

新しい駅が、過去と未来、日本と世界、そして多くの人々をつなぐ結節点として、街全体の発展に寄与するよう選定しました。

いやすみません、だからって「ゲートウェイ」を付けますか? 玄関口なのは分かるが、あまりに安直というか露骨というか。

 

止まらない疑問の原因をじっくり考えてみたが、そもそも「ゲートウェイ」とは何だろうか。

これ自体、意味を掴みにくい言葉なのである。『デジタル大辞泉』(小学館)を引く。

1 入り口。玄関。門のある通路。

2 異なるコンピューターネットワーク間を接続するコンピューターや装置、ソフトウエアの総称。プロトコルや通信媒体が異なるネットワーク間において、相互に認識可能な通信データに変換する役割をもつ。

 駅名は「1」を意識しているのだろうが、Google検索を使うと圧倒的に「2」のコンピューター用語として多くのヒットが現れる。もしかするとそうした接続口、拠点としての意味もあるのかもしれない。

ちなみに、かつてあったPCブランドを思い出す人も多いらしい。

www.itmedia.co.jp

だが、どちらにせよ一般に聞き馴染みのない単語である。大事なネーミングなのに、分かりやすさがない

 

鉄道記事を中心に取材するライターの小林拓矢さんは、なぜ「高輪」「芝浦」「芝浜」ではだめだったのかを考察する。

news.yahoo.co.jp

まず、高輪ゲートウェイ駅ができるエリアは、港区の港南2丁目である。それゆえ、純粋に「高輪」を名乗ることは難しい。加えて、東京メトロ南北線都営地下鉄三田線に「白金高輪」、都営地下鉄浅草線に「高輪台」という駅があり、他社に類似の駅名がある。先にできているその駅名を差し置いて、しかも「高輪」ではない地に「高輪」の名前をつけるのは、困難だったのではないだろうか。 

 

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Google マップで調べると、赤いポイントが新駅の住所(東京都港区港南二丁目10-145)である。たしかに、純粋な地名としては「港南」などがより当てはまるだろう。「芝浦」もまた若干離れている。

しかし、埼玉には「浦和」を冠する駅が8、千葉には「千葉」の付くものが12もある。個人的には東武東上線の「朝霞」と「朝霞台」も思い浮かぶ*1。先例もあるうえここまで票を得たのだから、今さら「高輪」でもきっとOKだろうに。

 

ただこの記事においては、「芝浜」の考察にはあまり納得したくないうえ、まとめの一文には突っかかりしかない。

JR東日本は、高輪ゲートウェイ駅周辺の再開発で大きな利益を得ようとしている。そのためには、未来志向の駅名である必要があったのだ。そう考えると「高輪ゲートウェイ」になった理由も、よくわかる。

ごめんなさい、未来志向といいながらよりによって「ゲートウェイ」を選ぶ理由には結びつかない気がします。もっと良い単語あるでしょう。それか「品川シーサイド」みたいに少しでも語感を考えるとか。

 

しかしどうも、元凶は別に居たらしい。

新駅の周辺はJRが13万㎡に渡り再開発をする区域で、そのコンセプトが「グローバル ゲートウェイ 品川」だという。ああ、お前だったのか…。

www.data-max.co.jp

「日本のグローバルゲートウェイとして生まれ変わる」ってマジでよく分からない前置きですが、これから東京・品川エリア(高輪を含む)は新駅をはじめ、オフィスビルにマンションと街ごと新しく作られていくという。

東京都が14年に策定した「品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドライン2014」では、海外都市や国内地方都市へのアクセス性が高く、職住が近接している品川を、大手町・丸の内・有楽町に並ぶ拠点として格上げするとしている。

再開発に対し相当な力の入れようである。

品川においては「陸路、空路ともに東京の玄関」であることから、今までのアクセスの弱さ等を克服したい、ということだ。

 

僕は今回の命名を、再開発プロジェクトを推し進める関係者による宣伝だと邪推することにした。とびきり派手で、かつ確実に人々から注目される、ある意味最高の宣伝だと。

しかしこれから何十年と続いていくであろう駅の、ひとつの街の中心になる駅の名前を、それに巻き込んでしまうのかという思いは消せない。駅名ではないけれど、きっとこうして古くは「E電」、今なら「東京さくらトラム」とか「東武アーバンパークライン」みたいな名称も生まれたのだろうな。「荒川線」の名を消そうとしているの許しがたい。

 

この駅を呼ぶ時は、「高輪駅」か「ほら、あれだよ、新しく出来た変な名前の駅」で突き通そうと心に誓う。いつかあの名が、塵となって消えることを信じて。

 

*1:JR武蔵野線北朝霞」駅に乗り換えられるのは「朝霞台」の方。「朝霞」では駅のホームにその旨注意書きがある。紛らわしさMAX